半年ほど前にボーカルの体験レッスンにいらっしゃったあるナイスミドルの男性、
「小さい頃から音痴だし歌うことが嫌いだった」とおっしゃる。
もちろんカラオケに行ったこともなく、童謡すらほとんどご存知ない。
でも、話している声はとてもよく響くいい声だし、
体験レッスンを受けにくるということは、「歌ってみたい」という気持ちがあればこそ、なわけで。
かなり迷われましたが、レッスンに通って頂けることになりました。
レッスンをはじめてみると、音程やリズムがとても苦手だということがわかりました。
身体の重心の取り方が偏っていたので、ストレッチや片足立ち、歩きながらリズムを感じる練習などして頂いたら、なんとなく掴めてきたようです。
音程については、若い頃に趣味でバイクに乗っていたことがあるとお聞きしたので、
アクセルをふかすように声の高さを変えてみてください、
というとびっくりするほど上手にできるのに、まったく目的の音程に辿り着けない…(笑)
いわゆる音痴にもいくつかタイプがあるのですが、
この男性は、自分の身体(筋肉)のコントロールはかなり上手なのに、
スピードメーターがついていないバイクのようなタイプ、ということが判明しました。
つまり、アクセルやブレーキの使い方はわかっているし、
排気量も大きくて、よく走る、つまりよく声の出る身体(楽器)を持っていらっしゃる。
でも、幼い頃にどこかで誰かにスピードメーターを壊されたんだと思います。
ずっと自分がどのくらいの音程で歌っているのか分からなくなってしまったんですね。
スピードメーターと言いましたが、実は走っている時に、まわりの風景を見て、
なんとなく自分の早さを感じるものですが、
この方は、まるで目隠しをされた馬のように、風景を見る習慣もありませんでした。
これは、音楽で言えば、伴奏の音を風景や背景のように感じる、ということにあたります。
背景に調和する色、音程というのが必ずあるわけで、それを無視して音楽を奏でることはできません。
例え、アカペラで独唱であったとしても、地平線、という基準の背景が存在します。
普通は、自然と耳に入ってくる音を聴いて、こういう感覚が身に付いているのですが、
この方のようなケースは、少しずつ再構築してもらわなくてはならないので、少し時間がかかります。
それでも半年経って、少しずつ慣れてきたようで、
ちゃんと伴奏に合わせて歌えるようになってきました。
こうなれば、もともととても性能のいいバイクのような楽器(身体)をお持ちなので、きっとどんどんうまくなっちゃうだろうなぁ〜と期待しているところです。