今日のお話は、どちらかと言えば、指導者の方に向けての覚書です。
似たような経験をされているボイストレーナーの方の参考になれば幸いです。
今日ご紹介するのは、ちょっと一風変わった苦手をお持ちの方。
お手本を何度も聞けば、なんとなく近いメロディを歌うことはできるのですが、
メロディの細かい修正が苦手です。
「楽譜をよく見てください、1小節目と5小節目のメロディはとても似ているけど、
ここの部分が違いますよね?」
とお伝えして、該当部分を何度か練習すると、一旦は修正できるのですが、
1週間経つと、修正したメロディを忘れてしまうようで、最初に覚えたメロディを歌ってしまいます。
この方はそこそこお年を召した方で、記憶と上書きの問題だろうと思っていたので、
楽譜に頼らず、耳から聴いて復唱してもらうことで、メロディの上書きにチャレンジしてみました。
その練習過程で、今まで気づかなかった大きな問題が発覚したんです。
その練習方法は、「ド・レ・ミ」などのごく簡単なメロディをこちらが歌い、
それにジェスチャーを付けて復唱してもらうというもの。
「ド・レ・ミ」のように、ひとつずつメロディが高くなっている場合は、
空中に階段をイメージして、そこに手を置いていきながら歌います。
メロディの上書きの前に、予備練習をしていたのですが、
歌っている音の高さと、手で示している音の高さがまったく一致していないことに気づきました。
つまり、聴こえたメロディを、同じ音程で歌うことはできるのに、
その音が上がっているのか下がっているのか、という認識がまったくできていなかったんですね。
そりゃ〜いくら楽譜を確認しても、メロディが把握できないわけですよ!
音が高いのか低いのかを認識できないということは、
モノトーンのグラデーションで、どちらが濃いですか?薄いですか?
と聞かれてもわからないのと似ています。
音程を上げてください、下げてください、
という指示が、今までまるで理解できていなかったということになりますね。
でもよくよく考えてみれば、
窓のないエレベーターに乗っていて、
「あれ?今上がってる?下がってる?」とわからなくなること、ありますよね?
ミュージシャンにとっては、とても当たり前に感じていた「音の高低」は、
誰でもが当たり前に認識できるとは限らないんだということを、思い知らされました。
もっと早く気づいてあげられたら、もう少し効率よくレッスンしてあげられたかもしれない、
と大反省です。
この生徒さんには、音の高低の違いを目と感覚で認識できるように、
弦楽器を使った練習を提案しています。
この感覚が身についたら、劇的に楽譜が読めるようになるはずですよ、とお伝えしました。
練習してくれるかなぁ〜?